「背が高くて、うらやましい。」


ならあんたに10センチでも20センチでもくれてやる。何度そう思ったか。身長が高くて得をすることなんて、大して存在しない。むしろ私の場合損をすることのほうが多かった気がする。初めて自分の身長を恨んだのは小学校のときだった。その時は、背が高い所為で先生によく雑用を押し付けられる(おもに掲示物関係の)なんていうものすごく些細なこと。その次は中学3年。好きな人にフラれた。「俺、自分よりデカいやつとは無理だわ」お前みたいなチビこっちから願いさげだ!と、自分で告白しながらそんなことを叫んでしまった。その次は高校1年。「ごめん。お前のこと好きだけど、一緒に歩くの…恥ずい。」だから一緒に帰るの今日で最後な。なんて言って無邪気に笑った彼氏の顔面を殴り飛ばした。当然その男とはすぐに別れたわけだけれども、それきり私は彼氏をつくることはおろか、恋をすることもなくなってしまった。それもこれも私の身長が原因だと思うとどうも悲しくなる。身長なんてどうしようもない。高くなるように努力はできるけど、ちっちゃくなる方法なんて聞いたことがない。ため息をついて少し低い机に突っ伏した。(…ちくしょー)窓の外からは部活生の声が響く。私も今まで色んな部活に勧誘されたけれどどれも入ることはなかった。特にバレー部とバスケ部からはこれでもかというほどしつこく誘われたのだが、入ったら自分の身長の高さを認めるみたいな気がしたので断固として入らなかった。今考えれば部活で自分の身長を活かすことができれば、考え方は今とは逆転していたのかもしれない。けれどそれも後の祭り。今さら、である。バレー部の友達を待っているつもりだったけれど、やるせなくなったので鞄に手をかけた。帰って溜め録りしていたドラマでも観ようと腰をあげたとき、


?」


驚いて振り返る。視線の先に立つ人物に目を見開いた。「び、っくりした…」「え、ごめん?」
首をかしげるその人が一歩こちらに近づくたびに上へと傾く私の頭。「剣道部、だよね。」「見りゃわかるだろ。」トン、と自身のお腹の辺りを覆う防具に触れて笑った 私よりも10センチ以上身長の高い。彼もバスケ部やらバレー部やら、この身長を欲しがる部活に幾度となく勧誘を受けたらしい、が全て蹴って剣道部に入部。なんでも小学校からやっているらしく、とてつもなく強いらしい。見たことないけど。「なんか悩みでもあんの?」よいしょ、と その大きな体を下ろして自分の机の中を覗き込むに疑問符を浮かべた。「お、あったあった」真っ白いスポーツタオルを手にとって立ち上がる。「悩みって…どうして?」「だってため息ついてたじゃん」見られていたらしい。ドキリ、として動きを止める。こちらを向いて机に軽く腰掛けたから目を逸らした。「あ…俺なんかに言えるわけない、よなー」悪い、と言って立ち上がるを見ながら胸のなかがモヤモヤするのを感じた。「じゃあ、俺部活もどるわ。」手に持っていた鞄はいつの間にか足元に落ちていて、気がついたらドアの辺りに立つを呼び止めていた。


!」
「んー?」
「…私、身長高い所為で掲示物頼まれたり、好きな人に「デカい女無理」ってフラれたり、隣歩くの恥ずかしいって言われたりすることが悩み…だったり、するん、だけ ど  」


言ったあとで後悔した。こんなこと言ったって反応に困るだけじゃないか。「あ、いや…今のきかなかったことに、」「そんなことかよー」振り返ったの顔は逆光でよく見えない。よく目を凝らして見るけれど現状はあまり変わらなくて。


「それなら、より背高いやつに頼んで、より背高いやつ好きになって、より背高いやつに隣歩いてもらえば
いいんじゃん? たとえば…」


こちらを向いていたがもう一度踵を返したのがわかった。そして顔だけをこちらに向けてひとこと言い放つ。


「…俺、とか」


逆光に隠れた顔が、少しだけ赤かったような気がした。



 

(090505 お相手が剣道部でなくてはならない理由は、ありません。(お前)ヒツヤは小学校から剣道をやっていて高校も剣道部なのですが、なにせ部員が少ない…。少しでも多くの方に剣道のよさ、ていうかカッコよさをわかってもらえないかと剣道部シリーズを考案していてとりあえずこんなのかいてみた。あ、今までで一番長いあとがき?かもしれない。ヒツヤ)

 

 

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