ー!さん外で待ってんぞー!」
「おう、さんきゅ!」


50人弱いる部員の中で1番に着替えを済ませ、は外で待つ彼女の元へ一目散に駆け出した。周りでは「相変わらずだなあ」だとか「羨ましい」なんていう言葉が飛び交っているけれど、あたしは羨ましいだなんて思ってあげない。なんであのこなんだろう。あたしのほうが可愛いし気が利くし、部活も一緒だからいつも一緒にいられるのに。何度もそう思ったけれど、が選んだのは結局あのこなのだからどうしようもない。何故、だとか、どうして、なんてものは 本人にしかわからないのだから。「――あれ、のやつ携帯忘れて行ってら…」部員の声にハッとして顔をあげる。部員の手元で揺れる黒い携帯電話には見覚えがあって、言わずもがなそれはのものだった。「あ…あたし、届けてくる!」半ば引っ手繰るようにして掴んだ携帯を、まるで割れ物を扱うかのように両手に握って部室をでる。があのこのことをどれだけ好きかなんて知らないし、知りたくもない。あたしはが好き。ただそれだけ。薄暗く、見えずらい足元に注意をはらいながら、まだ校内を歩いているであろうを追いかけた。


しばらく小走りして、校門の手前あたりで目当ての背中を見つけた。「!」あたしの女らしくない大声は一発で届いたらしく、その場で立ち止まったは、隣にいるあのこと同時にゆっくり振り返った。駆け寄って携帯を差し出す。「忘れ物。」「っあ!うわ、ありがとうございます、先輩。」あたしの手に握られた携帯を見て、一瞬目を見開いたは それを受け取ったあとこちらに浅く頭をさげた。「わ、よかったね、優しい先輩がいて。」にこりと微笑んだあのこに、胸のなかのもやもやが増す。「ほんと、うちの部イイヒトばっかだから。」もう一度、はあたしに向かってありがとうございますと言ったあと、頭をさげた。




イイヒト。




頭の中に、不思議となんの違和感もなく浮上するその言葉。ああ、どう頑張ってもあたしは、の『いい先輩』でしかないのだ。頭のどこかではわかっていた。けれど、認めようとはしなかった。いつか、あのこから目を逸らしたとき、その視線の先にあたしがいればいい。そんな願いを胸に想いつづけていたのだから。

 

 

「じゃあ、俺たち帰ります。」

の声に顔をあげる。「失礼します。」いつもを追いかけるあたしの目は、人当たりの良い笑みで会釈をするあのこに向いていた。たしかに清楚で可愛らしい容姿をしてるし、(でもあたしのほうがずっと美人)小さくて女らしい。(だけどスタイルのよさは負けてない)それに、少しドジで天然。(あたしはあんなノロマと違ってマネージャーの仕事も完璧にこなせるのに!)なのに。ねえ、どうしてあたしじゃないの。どうして、どうしてどうしてどうしてどうして!




「なんで…!」

 




今まで自分でも聞いたことがないくらい低く唸るような声で呟いた。ポタリ、と あたしの頬から滑り落ちた液体が地面に痕を残す。全てが劣っているのに。ぜんぶあたしのほうが勝るはずなのに。返ってくるはずもない答えに絶望して前方を睨みつけるように見つめた。


ああ、涙で、見えない。



 

 



ドルチェは雨のワルツを踊る
(あなたがその女の手を握っているところなんて、見たくもないよ)

 

 

 

 

 

(090807 もっと明るい話書くつもりだったのに…!先輩怖いよう(´;ω;`)…←)

 

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